ふりむくわけにはいかないぜ

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「天使にラブソングを」が凄い

天使にラブソングを」を観た。

金曜ロードショーで。

 

その昔、何度か観たことがあるし

とても良い映画だった記憶はある。

 

でも最近は本当に何でも忘れてしまうので

この映画も「とても良かった」

としか覚えてなかった。

 

がしかし!今回は!!

 

これ、自立と尊厳や、親子関係、他文化との共存などなどをテーマにした、壮大なストーリーじゃん!!!!

と痛く感動してしまった。

 

 

修道院で静かに暮らすシスター達を娘、院長をその母、と捉えると、母と娘の親離れ子離れ話とも言える。

 

院長を母世代として見ると、

娘を自分の価値観の中で育ててるのは、娘の幸せを願ってるからではあるんだよね。

 

で、神や宗教を、祖父母や先祖、慣習や文化と読みかえると、院長(母)もまた、その上の世代の価値観の中で生きてきただけなんだ、ひたすらそれを信じてきたんだ。

 

一方、娘たちは母の教えを信じてるし、その教えに疑いもない。私達は守られているし、幸せ。それでいいはず。

 

そこに、ウーピー・ゴールドバーグ演じるテドロスが、新しい価値観を吹き込むわけだ。

 

母(院長や宗教そのもの)の価値観の中で生きていた娘(シスター)達は、初めて自分で「与えられたものでない」価値観を選び取る。

 

みるみる活き活きしていくシスター達を後目に苦々しい顔をし、平穏な毎日に新しい価値観を運んできたテドロスを忌々しく感じる院長は、娘が自分の手の中の籠から飛び立つのを止めようとする母じゃん!

 

ドロドロした話だと、娘が母に恨み節を始めるところだけど、

この映画の良いところは、シスター達は院長を憎まないんだよね。

 

変わらず院長を尊敬しながら、歌うことの楽しさ=生きている楽しさに目覚めていく!

「自分で生きていく」ことを知っていく!!

 

聖歌隊の歌声が美しくなると同時に、シスター(娘)達は自立していくように思える。

 

どんなに縛られていても、現実でもこんな風にしなやかに母の手から自立できたらいいのにね。

 

母の思いを知り、受け継いだ価値観も受け止めながら、新しく得た自分の価値観と融合させていけたらいいよね。

 

 

で、もう一つこの映画がちゃんとしてるな~と思うのは、テドロスとシスター達の関係の描き方。

 

母の価値観から抜け出し、新しい価値観を得たように見えても、ともすると単に依存先が母から別のものに変わっただけで、真に自立した訳じゃないってこともある。

 

思春期とかに親をうるさく感じて、友達にどっぷりハマり過ぎる経験って、割と皆あるのでは?と思うんだけど、

あの時期って親の価値観からは脱皮するけど、まだ独り立ちは出来なくて、拠り所をお互いに探してる、そして依存しあってる、みたいな友達関係だよね。

 

あと、せっなく毒親から逃げ出しても、生活力のない、世間から見たらダメダメな異性に依存してしまう、とかね。

 

それ自体は必要な時期なのかも知れない。

そこでの濃すぎる他者との関係や摩擦等を経て、だんだんと自立していくのかな、とも思う。

 

でも、正しい依存の先には自立があるけど、ずっと誰かの価値観の中で生き続け依存し続けていては、いつまでも「自分」にはなれないんだよね。

 

映画でも、最初の方はシスター達はテドロスに頼りっぱなしに見える。

テドロスによって、次の道をただ示され、それに従ってる感じ。

 

でも後半、テドロスを悪者から守る描写が、新しい相手に依存し続けるのではなく、対等に人と向き合う、お互いに自立した人間同士になってるのかな、と思えた。

 

さらに理想的だなぁと思うのは、テドロスを助ける時、院長がリーダーとなって先陣を切るところ。

 

あんなに忌々しく思ってたし、歌うことの喜びを知ったシスター達を見て

「自分にはもう役目がない」

と拗ねていたのに。

 

これってまんま、娘が巣立つのを見て抜け殻になる母、だよね。

空の巣症候群みたいな。

 

でも、院長は危険を冒してまでテドロスを助けようとする。

もちろん共に過ごした仲間として、ひと時でも自分と一緒に神の教えを乞うたシスターとしてってのもあるけど、明日に一世一代の晴れ舞台を控えたシスター達(娘)を助けることにも繋がってる。

 

自分から娘(シスター達)を奪った価値観(テドロス)であっても、最後は娘(シスター達)を守るためにも、その価値観(テドロス)自体を守るってのが、本当に理想的だなぁとしみじみしてしまった。

 

娘(シスター達)側は新しい価値観を得て、自分の足で立つことを選びつつ、母(院長)を嫌わず、その眼差しに感謝を忘れない。

さらにこれまでの慣習や文化(神や宗教)にも敬意を表し続けている。

 

母(院長)側も、最初は娘(シスター達)が変わっていくことを受け入れられなかったけど、その瑞々しい、生きる喜びを爆発させる姿に考えを変えていく。

 

私は母世代と娘世代のストーリーとして観ていたけど、もちろん黒人と白人の文化の共存という風にも観られるよね。

 

古い価値観も新しい価値観も否定するのではなく、それぞれを尊重していくことの大切さ、温かさ。

 

自分が何を選ぶのか、何に喜びを感じるのかを知った人間の強さ、美しさ。

 

過去を憎まず、変化を恐れず、

「私が幸せになれるから」

を基準に、強く、美しく、しなやかに生きていきたいね。